屋久島 日本の世界遺産

世界遺産_屋久島の魅力 世界遺産登録理由

1.登録基準

鹿児島の約60km南方に位置する屋久島(やくしま)は世界遺産リストに「屋久島」という名前で登録されています。

世界遺産リストに登録されるためには、「世界遺産条約履行のための作業指針」に示される登録基準の内、少なくとも1つ以上の基準に合致する必要があります。

屋久島は登録基準ⅶ、ⅸを満たし、世界遺産リストに登録されました。

基準 ⅶ.(ひときわ優れた自然美、独特な自然現象)の適用について

屋久島の屋久杉(やくすぎ)の作りあげる森林は他の地域では見ることの出来ない独特なものです。スギは日本の固有種であり、日本国内の他の地域でもスギの天然林は存在しますが、樹齢数千年にも及ぶ屋久杉のようなスギが生える地域は他にはなく、世界においても極めて珍しいものとされています。

この点が登録基準ⅶ.に該当するとして、評価されました。

基準 ⅸ.(動植物の生態系の進化や発達を示す見本となるもの)の適用について

屋久島は、他の地域で失われつつある温帯地域の天然林があること、ひとつの島で亜熱帯から冷温帯までの多様な植物が見られることが評価されました。

屋久島は日本列島の南側という位置と標高約2000mの高い山々の存在により、東南アジアのような熱い気候から北海道のような涼しい気候まで多様な環境が存在しています。そのためこの小さな島の中で、亜熱帯から冷温帯まで幅広い地域に存在する植物を見ることができます。このような地域は他にはなく、また世界各地で減少している亜熱帯地方の天然林が残っていることは世界でも貴重なものとされています。

この点が登録基準ⅸ.に該当するとして、評価されました。

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2.遺産価値総論

屋久島の遺産価値は「屋久島特有の屋久杉というスギとそのスギが作り出す独特の森林及びその景観、そして豊かな植物群が存在していること」です。

(1)屋久杉

屋久島には屋久杉という屋久島特有のスギがあります。腐りにくくて寿命が長く、非常に大きくなるこのスギは、屋久島の代名詞とも言える樹です。

このスギは栄養の少ない地質という屋久島特有の環境の中で生まれ、倒れた木や切株からも新たな芽を吹きだすという特徴があります。

また、屋久島は「ひと月に35日の雨が降る」というほど雨が多い環境ですが、この環境下でも腐ることなく育ちます。

多湿な環境の森林には地面に根を下ろさない植物が多くなりますが、そういった多湿な森林において、巨大なスギや切株から芽を出す新しいスギが多く育つ屋久島の森林の景観は、他の地域の森林とは全く異なるものとなっています。

屋久杉

(2)豊かな植物群

屋久島は屋久杉だけではなく、非常に多くの植物が存在することでも有名です。

東京23区の大きさよりも小さな島にも関わらず、日本列島の自然がこの島の中に凝縮されているとも言われています。

これは、屋久島が暖かい海の中にありながら、島内に標高の高い山々も存在するためであり、島内での標高による気温差が非常に大きいことで亜熱帯地方から冷温帯地方までの様々な植物が生息しています。(具体例は5.生物・生態系 (1)植物 参照。)

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3.資産の概要

屋久島は九州の最南端から南に約60kmの海上にある面積約50,000haの島です。

亜熱帯気候の最も北側にあたり、周辺海域には世界で最も水温の高い海流の黒潮が流れていますが、それと同時に極寒のシベリア気団の影響を受ける地域として最も南側にあたります。そのため、海岸付近の標高の低い場所では亜熱帯性気候となりますが、標高の高い山頂付近では年間平均気温が6~7℃ほどと寒く、冬には積雪も観測されます。

島の中央部には九州最高峰・標高1,936mの宮之浦岳(みやのうらだけ)を始めとした険しい山々と、多数の河川によって深く刻まれた谷が存在しています。
また温暖多雨な環境で、年間降水量は日本の約5倍にものぼります。

なお世界遺産区域は、屋久島の中心部から西の海岸部に及ぶ10,747haです。

座標位置
・北緯 30度15分~30度23分
・東経 130度23分~130度38分

画像:ダイビング魂

図1 遺産地域マップ

画像:環境庁 屋久島

画像:キューピッドダイビングスクール

画像:Yahoo知恵袋

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4.自然環境

(1)地形・地質

屋久島は約1,400万年前の地殻変動により隆起してできた島だと言われています。約1万8千年前の氷河期の頃には海水面が低下し、九州と陸続きにもなっていました。屋久島に多様な植物やサル、シカなどの動物が存在するのは、この時に屋久島に渡ったためとされています。

約1万5千年前になると、今度は地球が温暖な時期になり海面が上昇し、屋久島は再び海に囲まれることとなりました。その後、屋久島は九州と陸続きになることなく現在まで島として存在しています。

屋久島の地形については、標高1,936mの宮之浦岳を筆頭に、標高1,886mの永田岳(ながただけ)、標高1,867mの栗生岳(くりおだけ)など1,000m以上の山が46座も連なっており、「洋上のアルプス」とも呼ばれています。また、河川も多くその数は140にも及びます。

この急峻な山々と河川、日本一を誇る雨量によって深い渓谷が刻まれており、多くの滝が発達しています。

屋久島の地質については、花崗岩(かこうがん)という岩石によって形成されています。花崗岩というのはマグマが地下深くでゆっくり冷えて固まった岩石で、栄養分が少ないという特徴があります。この花崗岩によって地表が覆われているため屋久島のスギは成長が遅く、屋久島特有の屋久杉の存在に繋がっています。

屋久島

(2)気候

屋久島の気候は、高温多湿です。

年平均気温は海岸の低地部では20℃前後、山間部でも15℃前後と一年を通じて高く、冬でも0℃以下になることはほとんどありません。しかし、山頂部では5~6℃と低く、冬には積雪も観測されます。

また屋久島の気候の特徴として、海岸線からわずか3~4kmしか離れていない山間部で、海岸地帯より4~5℃も気温が低いという現象が見られます。

このように狭い範囲にもかかわらず、標高によって大きく気温が異なることは、屋久島の多様な植物分布につながっています。

降水量については、「ひと月に35日雨が降る」と言われるように、海岸地帯では年平均3,000~5,000mm、標高が上がるほど増加し標高600m以上の中央高地では年平均8,000mm以上、年によっては10,000mm以上になります。

年平均8,000mm以上というのは、日本の年平均降水量の約5倍、世界の年平均降水量の約10倍にもなります。

このような環境であるため、湿度も非常に高く平均73~75%、梅雨期の6月には80%を越えています。

屋久島

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5.生物・生態系

(1)植物

屋久島の植物には2つの大きな特徴があります。1つは多様な植物が見られる点、もう1つは屋久島特有のスギである屋久杉の存在です。

多様な植物分布

屋久島の大きな特徴として、小さな島の中に多様な植物が分布していることが挙げられます。その多様さは「屋久島には日本全域の自然が凝縮されている」と言われるほどです。
その要因には、屋久島の位置、地形、気候が深く関わっています。

屋久島の位置は北緯30度付近ですが、この辺りは東南アジアや台湾、沖縄といった亜熱帯気候の北限とされています。それと同時に、日本本土が属する温帯気候の南限ともされており、亜熱帯から温帯まで幅広い地域の植物が存在できる位置となっています。

また、周囲を世界一水温の高い海流の黒潮に囲まれているため、同緯度の他の地域と比較すると、海岸付近の温度が高くなっていますが、一方で、九州最高峰・標高1,936mの宮之浦岳をはじめとした急峻な山々があり、極寒のシベリア気団の影響を受ける地域でもあるため、標高の高い部分では、冬には積雪が観測されるほど寒い環境となります。

これらの地形・気候条件により、屋久島は同緯度の他の地域に比べ気温の幅が広く、その分多くの種類の植物が分布しています。

さらに屋久島に多くの植物が存在するのには、環境面だけでなく屋久島形成の歴史も関わっています。

通常、海洋に囲まれていると動物や植物は偶然海を渡ることができた種しか繁殖しません。しかし、屋久島は1万8千年ほど前に九州と陸続きになっていた時期があり、その時期に本土から多くの動植物が渡ったとされているため、屋久島には数多くの植物が繁殖することになりました。

このような多くの条件が揃ったために、屋久島は小さい島であるにも関わらず日本全土の自然が凝縮されていると言われるほど多くの植物が分布しています。

具体的には、海岸付近から標高100mまではガジュマルやメヒルギといった亜熱帯植物が育ち、そこから標高800~1000mあたりまではシイやカシといった日本の南側の暖温帯で見られる森林が広がっています。さらに標高が上がり、標高1,000~1,700mあたりではスギやモミといった日本の北側の冷温帯の森林が広がり、それ以上の標高ではヤクシマシャクナゲなどの高山植物が見られるようになります。

このように標高により生息する植物が異なることを「植物の垂直分布」といいますが、屋久島では亜熱帯から冷温帯、さらに亜高山帯までの植物の垂直分布が見られることが貴重であるとして世界遺産に登録されました。

屋久杉

屋久島固有のスギのうち、樹齢1,000年を超えるもののことを屋久杉と言います(樹齢1,000年以下のものは「小杉(こすぎ)」と呼ばれています。)。

屋久杉には腐りにくく、非常に巨大になるという特徴がありますが、これは地表近くまで、栄養の少ない花崗岩で覆われている屋久島の自然環境に関係しています。

地面の栄養が少ないと、スギの成長が遅くなり、年輪の幅は狭くなりますが、年輪の幅が狭くなると幹の目がつまって硬くなり、樹脂の量が他の地域のスギと比べて6倍以上になります。

樹脂には防腐、抗菌、防虫の効果があるため、樹脂の量が多い屋久島のスギは腐りにくいという性質を持ちます。

この腐りにくいという性質は樹齢を長くします。一般的なスギの寿命は最大でも800年程度とされていますが、屋久島のスギは樹齢1,000年以上になります。実際に屋久島には樹齢1,000年以上の屋久杉が2,000本以上も存在します。

このように、屋久杉は樹齢が長いため、大きさも幹が直径3~5mにも達するほど巨大になります。中でも「縄文杉(※)」と呼ばれている屋久杉は屋久島の中でも最大級で、根回りは43m、樹高は25mにも達します。

※屋久島を代表する古木で、スギの個体に付けられた名前。種類の名称ではない。

世界遺産登録地域外にはなりますが、「大王杉(だいおうすぎ(樹高24.7m、周囲長さ11.1m))」、「夫婦杉 (めおとすぎ(樹高25.5m・22.9m、周囲長さ5.8m・10.9m))」、「紀元杉(きげんすぎ(樹高19.5m、周囲長さ8.1m))」といった巨大な杉も数多く存在します。

樹齢1000年以上といった屋久杉が2000本以上という生育数の多さと屋久島以外の一般的なスギ(樹高約20m、周囲長さ約1.5m)とは比較にならないほど巨大になる点は生態学上貴重なものとされています。

また、屋久杉の腐りにくいという特徴は、倒れた木や切り株からも新芽を芽生えさせますが、この屋久杉の作り出す森林は他のスギの森林とは異なる独特で複雑な景観を成し、これが世界遺産の登録基準にも認められています。

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(2)動物

屋久島には植物だけでなく、多くの種類の動物も生息しています。

屋久島に多くの種類の動物が存在する理由に、屋久島が様々な動物分布の境界線の近くに位置していることが挙げられます。

例えば、昆虫類については三宅線(みやけせん)と呼ばれる境界線が、哺乳類や両生類などについては渡瀬線(わたせせん)という境界線が、鳥類に関しては蜂須賀線(はちすかせん)という境界線が屋久島の近くに存在しています。

境界線が近いということは境界線のどちら側の生物も存在できる場所であり、実際に多くの種類の動物が生息していることが確認されています。

さらに2,000m近い険しい山々がある島という特別な環境は、そこに住む動物の種類をより一層多様なものにしています。

また屋久島には屋久島のみに生息する動物が多く生存します。これは九州本土から切り離されて1万5千年に及ぶ歴史と変化に富んだ環境が生んだものとされています。

具体的には哺乳類では「ヤクザル」「ヤクシカ」「ヤクシマヒメネズミ」など、鳥類では「ヤクシマカケス」「ヤクシマヤマゲラ」などが挙げられます。

中でも屋久島の環境で育った動物の例として特に有名なものは「ヤクザル」と「ヤクシカ」です。

「ヤクザル」「ヤクシカ」は九州と陸続きだったころに屋久島に渡ってきた「ニホンザル」や「ニホンジカ」が屋久島に取り残され、屋久島の環境に合わせて独自に進化した動物です。

「ヤクザル」は多様な植物の分布に合わせて、異なる群れをつくって暮らし、「ヤクシカ」は、かつては標高の高い地域に生息していましたが、現在は分布を広げ低標高地域でも見ることが出来ます。

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【参考書籍】

すべてがわかる世界遺産大辞典(上)(世界遺産検定事務局)

【参照サイト】

UNESCO World Heritage centre

環境省 日本の自然遺産 屋久島

九州森林管理局

屋久島世界遺産推薦書

世界遺産登録時及び登録後の IUCN の評価について

日本の世界遺産 屋久島

屋久島自然館

屋久島世界遺産センター

屋久島の地質

Wikipedia 屋久島

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