大宝律令とは?律令国家の成立をわかりやすく
天武天皇と持統天皇の孫にあたる文部天皇(もんむてんのう、683年~707年、在位697年~707年)の時代、701年に日本最初の律令となる大宝律令(たいほうりつりょう)が制定され、中央集権国家体制の完成を見ることになります。
これによりヤマト政権が目指してきた本格的な律令政治の段階に入っていきました。
ここでは大宝律令制定による統治体制や司法制度(刑法)について紹介していきます。
大宝律令の制定
大宝律令とは、文武天皇の命令により天武天皇の皇子である刑部親王(おさかべしんのう)と中臣鎌足の第2子の藤原不比等(ふじわらのふひと)により完成させられた法典です。
697年、持統天皇は孫の軽皇子(かるのみこ(孝徳天皇も軽皇子と同名であったが別人))に譲位し、文武天皇(もんむてんのう、683年~707年、在位697年~707年)が誕生しました。文武天皇は701年、唐の律令を参考に日本で最初の律令となる大宝律令を制定し、日本は律令国家として完成を迎えました。
天智天皇の時の近江令、持統天皇の時の飛鳥浄御原令はいずれも令だけでしたが、大宝律令では初めて律と令が揃いました。
刑法に当たる律の部分は唐のものをほぼ受け継いでいますが、行政組織や官吏の服務規程、租税、労役等を定めた令の部分は日本の国情に合わせた内容になっています。
この令によって、中央集権の統治体制などが定められました。
なお大宝律令は現存しておらず、757年に施行された養老律令(ようろうりつりょう)がおおむね大宝律令を継承しているとされています。そのため、大宝律令の内容は養老律令から推定されています。
大宝律令による統治体制
骨格となる国政を行う中央政府の組織は、二官八省一台五衛府(にかんはっしょういちだいごえふ)から成っており、二官八省一台五衛府、地方や重要な地域における特別な官庁の構成は下図のようになっています。
二官は神事を司る神祇官(じんぎかん)と国政を司る太政官(だいじょうかん)によって構成されています。
太政官には政策を決定する太政大臣(だいじょうだいじん)・左大臣(さだいじん)・右大臣(うだいじん)・大納言(だいなごん)という役職がありました(最高首脳である太政大臣は適任者がいない場合、置かれません)。
太政大臣・左大臣・右大臣を公、大納言を卿としてこの2つを合わせて公卿(くぎょう)と言い(公卿には後に大納言と少納言の間に中納言(ちゅうなごん)、参議(さんぎ)といった役職も追加されました。)、国の政策は公卿による話し合い(合議(ごうぎ))によって進められ、最後に天皇によって裁可されていました。これを合議政治(ごうぎせいじ)と言います。
公卿の下には宮中の事務を行う左弁官(さべんかん)、右弁官(うべんかん)、少納言(しょうなごん)があります。
少納言は主に詔が発される場合の事務などを、左弁官、右弁官はそれぞれの傘下につく4つの省の監督を主な職務としていました。
左弁官傘下の4つの省
①中務省(なかつかさしょう)
天皇に従事し、天皇の補佐、天皇の命令である詔書の作成・公布、叙位(じょい)(位階を授けること)など、朝廷に関する職務全般を幅広く担当。
②式部省(しきぶしょう)
文官の人事や教育関係、役人養成機関である大学寮の統括などを担当。
③治部省(じぶしょう)
仏事、陵墓、皇族の葬儀や雅楽などの儀礼全般、外国からの使節の接待などの外交事務、姓名関係の戸籍の管理などを担当。
④民部省(みんぶしょう)
諸国の田畑、道路、租税、租税に関わる戸籍などの民政を担当。
右弁官傘下の4つの省
①兵部省(ひょうぶしょう)
武官の人事、諸国の兵士の管理や武器の管理などの軍事全般を担当。
②刑部省(ぎょうぶしょう)
重大事件の裁判や監獄の管理、刑罰の執行などの司法全般を担当。
③大蔵省(おおくらしょう)
朝廷の倉庫である大蔵を管轄。財宝や貢物の出納(すいとう)(金銭・物品の出し入れ)、保管など租税以外の財政を担当。
④宮内省(くないしょう)
宮廷の修繕や食事、掃除、医療などの庶務全般を担当。
また、各省の下にはさらに識(しき)・寮(りょう)・司(し)などの諸官司があり、それぞれの仕事を分担していました。
この他に、中央行政の監察、京内の風俗の取り締まりを主な職務とする弾正台(だんじょうだい)と軍事組織である五つの衛府(えふ)があります。
衛府は宮城(きゅうじょう)諸門(天皇の住む場所に通ずるいくつかの門)の警備を担当する衛門府(えもんふ)、京内の巡回などを行う左・右衛士府(えじふ)、天皇親衛隊を管理する左・右兵衛府(ひょうえふ)の五つから成っています。
地方の行政については、国郡里制(こくぐんりせい)と呼ばれる方式が採られるようになりました。
これは、全国の行政区を畿内(五畿(大和国、山背国、河内国、摂津国))と七道(東海道、東山道、北陸道、山陰道、山陽道、南海道、西海道)に分け、その下を66の国に分け、国の中は郡に分け、郡の中は里に分け、国には国司、郡には郡司、里には里長を置いて統治するものです。
国司は中央の貴族から一定の任期で任命され、郡司はもとの国造などの地方豪族から終身で選ばれ、国司や郡司には多大な権力が与えられ、また里長は現地の農民のうちから有力者が任命されていました。
なお、里は50の郷戸(ごうこ)ごとに1里とされ、1郷戸は2~3の房戸(ぼうこ)を集めたものです。
律令国家においては、郷戸は戸主というリーダーの血縁者だけの集団ではなく、居候や奴婢などの非血縁者を含む集団で、この集団のなかには房戸といって血縁者だけの10人前後の家族がありましたが、これは政府が農民に税を課し徴収するための便宜でした。
また重要な地域には特別な官庁が置かれました。
京には左・右京識(きょうしき)が置かれ、京の行政・警察・司法の役割を果たしていました。
さらに、外交上の要地であった摂津 (現在の大阪府の北中部の辺り)には一般国司の役割に加え重要な港である難波津(なにわつ)などの管理も担当する摂津職(せっつしき)が、外交及び国防上の要地であった西海道(さいかいどう)(現在の九州地方)には九州全般の民政及び軍事を統括する大宰府(だざいふ)が置かれました。
このような統治体制のもと中央、地方の諸官庁では四等官制(しとうかんせい)というシステムも導入されました。
四等官制は律令制において諸官庁の中核となる上級役人が4等級で構成されていたことを表す用語です。四等官は事務統括者の長官(かみ)、長官補佐の次官(すけ)、一般事務を行う判官(じょう)、書記に当たる主典(さかん)の4等級から構成されており、四等官の下には多くの下級役人が配置されていました。
四等官の書き方は官庁によって異なりましたが、読み方は全て同じ(例えば、神祇官の「伯」も省の「卿」も「かみ」と読む)で、その職掌もほぼ同じでした。
■四等官表
画像:詳説日本史研究(山川出版社 佐藤 信, 五味 文彦, 高埜 利彦, 鳥海 靖)
また、役人はその出自や出身によって身分の高さを示す位階(いかい)というものが与えられました。位階は30段階に分かれており、役人はこの位階を基準とし、それに相当する役職を定められました(「官位相当(かんいそうとう)の制」)。
位階や役職にはそれに応じた報酬や税の免除、刑罰の減刑などの特典があり、高い身分の位階を持つ人には子や孫にも一定の位階が与えられるという「蔭位(おんい)の制」という制度も適用されました。
こうした特権をもらえる地位を占めていたのは大化の改新以前からの大豪族たちで、彼らはよりいっそう安定した生活を送るようになり、このあたりから、「豪族」は地位や財力を世襲する「貴族」となっていきました。
大宝律令下における司法制度(刑法)
大宝律令は唐の律令が手本であると言われますが、律(刑法)については唐の律を少し緩やかにしたものとなっています。
刑罰
刑罰には、笞(ち)・杖(じょう)・徒(ず)・流(る)・死(し)の5つがあり、これを五刑(ごけい)と言います。
笞 | 竹で出来た棒で、罪の程度によって10~50回お尻や背中を打つ(5段階) | |
杖 | 笞より太い棒で、罪の程度によって60~100回お尻や背中を打つ(5段階) | |
徒 | 1~3年の懲役(5段階) | |
流 | 遠方・辺境の地への追放。(以下の3段階) | |
近流(こんる) | 越前(えちぜん)(現在の福井県辺り)・安芸(あき)(現在の広島県辺り) | |
中流(ちゅうる) | 信濃(しなの)(現在の長野県辺り)・伊予(いよ)(現在の愛媛県辺り) | |
遠流(おんる) | 伊豆(いず)(現在の静岡県にある伊豆半島、伊豆諸島)・安房(あわ)(現在の千葉県辺り)・常陸(ひたち)(現在の茨城県辺り)・佐渡(さど)(現在の新潟県にある佐渡島)・隠岐(おき)(現在の島根県にある隠岐諸島)・土佐(とさ)(現在の高知県辺り) | |
死 | 絞首あるいは斬首(2段階で斬首の方が重い) |
罪
罪については、国家的や社会的な秩序を維持するため、国家・天皇・尊属(自分より上の世代の親族、父母、祖父母など)に対する罪は特に重く、八虐(はちぎゃく)と言われ、以下の8つの罪がありました。
これらは、貴族や官吏でも減刑されず、また恩赦においても減刑されませんでした。
謀反(むへん) | 天皇殺害の罪(未遂を含む) |
謀大逆(むたいぎゃく) | 皇居や陵墓(天皇の墓)の損壊 |
謀叛(むほん) | 国家に対する反乱 |
悪逆(あくぎゃく) | 尊属(父母や祖父母など)の殺害 |
不道(ふどう) | 大量殺人や呪いなど |
大不敬(だいふけい) | 神社や天皇に対する不敬(尊敬の念を持たずに礼儀に外れること) |
不孝(ふこう) | 殺人以外の尊属に対する犯罪。祖父母や父母の告訴や喪に服さないなど |
不義(ふぎ) | 主君・師匠・夫などの上位者に対する殺人など |
[参考書籍]
日本の歴史 飛鳥・奈良時代 律令国家と万葉びと(小学館 鐘江宏之)
新 もういちど読む山川日本史(山川出版社 五味文彦・鳥海靖 編)
日本史(山川出版社 宮地正人 編)
日本の歴史2 古代国家の成立(中央公論社 直木考次郎)
日本の歴史3 奈良の都(中央公論社 青木和夫)
日本の歴史03 大王から天皇へ(講談社 熊谷公男)
日本の歴史04 平城京と木簡の世紀(講談社 渡辺晃宏)
これならわかる!ナビゲーター日本史B 1 原始・古代~南北朝(山川出版社 會田 康範)
詳説日本史研究(山川出版社 佐藤 信, 五味 文彦, 高埜 利彦, 鳥海 靖)
[参考サイト]
Wikipedia 大宝律令